Designated Producers

2010年度神戸肉枝肉共励会・名誉賞
「福井牧場」福井武子さん

亡きご主人の思いを継いで
ここは神戸に隣接する三田市の北部、茗荷谷山のふもと。あたりに広がるのどかな田園風景を見晴らすように、山の斜面に福井武子さんの小さな牛舎が立っています。 「共励会の後、『よかったで!』と結果を知らせる連絡をもろたんやけど、まさか名誉賞やなんて思ってもしませんでしたから、びっくりしてしもうて」と福井さんは笑いながら話しますが、出品された枝肉の格付けはA5の12という快挙。
約20年前、今は亡きご主人が始めた肉牛の肥育を手伝いながら、見よう見まねで牛の世話を覚えた福井さん。当時は、コンクリート製電柱への建て替えにより不要になった木の電柱を貰い受けて、ご主人が自力で牛舎を建てたといいます。ご主人もよい肉質の作り手だったとのことで、周囲にも「おじいちゃんが獲れんかった賞をおばあちゃんが獲って、おじいちゃんも天国で喜んでるやろ」と声をかけられるそう。
豊かな自然環境と愛情の力
実はこの共励会の少し前にも、A5クラスの肉牛を立て続けに2頭輩出していたため、周囲から「いったいどうやって」と驚きの目で見られている福井さん。そんな中でも福井さんは「愛情と、環境と、水のおかげやないかな、と思うんです。そうやないとこんな年寄りになんの技術もないし」と謙虚そのもの。
水は茗荷谷山の湧き水を引き込んだもの。えさは、地元の田んぼから集まるわら。そして、真夏でも昼すぎからは山の陰になって涼しくなるという恵まれた環境で、牛たちは福井さんの細やかな愛情に包まれて育ちます。名誉賞の牛の場合は、共励会のひと月前から毎日柵の中に入って、牛の体に触れて心を通わせ合いました。ご家族は、「万が一蹴られでもしたら」と柵の中に入ることを心配してとめたそうですが、「私が背中なでたり掻いたりしてやったら、牛が喜んで、もっとしてくれ、いうて甘えてきてね」と福井さん。
「おばあちゃん以外の人間が牛舎に入ったら、牛がバタバタ落ち着かんように歩き回るけど、おばあちゃんやったら寄ってきて甘えてくる、さすがやなあ、って息子にも言われます」。
牛の肥育を生きがいに
81歳には見えないほどかくしゃくとした福井さん。昨年の秋にも、新たに子牛を2頭買い入れ、育てることに決めました。「そやからまだあと2年はがんばらなあかんのです」と笑いますが、大切な牛たちの世話で毎日体を動かすことが、やはり福井さんの元気の秘訣のよう。最近では、大学生のお孫さんも作業を手伝ってくれるといいます。
「小学生の頃からおじいちゃんが農機具に乗せたりして、今からこうやって教えといたらええいうて、どこへ行くのも連れ歩いてた子でね、よう手伝ってくれるようになりましたわ」。そんな自慢のお孫さんが手作りしてくれたという「福井牧場」の看板が立つこの場所から、またチャンピオン牛が生まれることも夢ではないかもしれません。

照れたようなやさしい笑顔が印象的な福井さん。その愛情のおかげか、牛たちも揃って気質がおだやかだそう。