Designated Producers

2013年度神戸肉枝肉共励会・名誉賞
「上田畜産」上田伸也さん

繁殖から肥育まで、一貫経営を強みに
兵庫県屈指の豪雪地帯、美方郡香美町。上田伸也さんは、ここで繁殖から肥育までの一貫経営を行っています。
「この辺りでは僕らの親世代は畜産だけでは食えなくて、冬場は出稼ぎに行くのが当たり前だったから、とにかく僕は牛一本で“食える農業”をめざしたくて」。その言葉どおり、約20年の間に目覚ましい経営拡大を遂げた生産者です。
種付して出産させた子牛を月齢9か月まで育て、子牛市場に出品するのが繁殖農家。その子牛を買って月齢28~32か月まで育てるのが肥育農家と呼ばれ、繁殖と肥育では求められる技術が異なるため、専門分野として分業がなされています。そんな中で、祖父から繁殖牧場を継承した上田さんが、肥育にも力を入れ始めたのは約6年前のこと。「子牛市場では価値のつかない“落ちこぼれ”子牛を、自分の手で立派に育ててみせよう」という反骨精神からの出発でした。現在は、年間生まれる約220頭の子牛のうち、雌牛はすべて自社牧場で肥育しています。
子牛の段階からの「腹づくり」が決め手
肉牛の世界では「腹づくり」、つまりしっかり食べられる丈夫な胃袋をいかに形成するかが最重要課題と言われます。生まれたての子牛の段階から、じっくり腹づくりを積み上げていけるのは、まさに上田畜産の強み。試行錯誤を経て、飼養管理技術を確立、その成果がめきめきと表れ始めています。今回名誉賞を獲得したのも自社牧場で生まれ育った牛で、これまでの経験の中でトップクラスの出来。
「子牛の段階では小さくて見栄えのしないタイプだったから、腹づくりがうまく行った典型だと思う。自分たちの努力に牛が応えてくれた」と笑顔を見せます。かつて「削蹄師」(さくていし:牛の伸びた蹄を切り、形を整える専門家)として、全国を回っていたこともある上田さん。各地の優秀な牧場を観察し、牛づくりの技術から経営手腕にいたるまで多くのものを学んだとか。「牛飼いの技術は年々進歩しているから、ひとつの方法に固執していてはダメ。頭を柔らかくして、新しい情報に常にアンテナを張っていないと」という思いは今も変わりません。
家族・社員一丸となって次のステージへ
そんな上田さんを支えるのは、牧場長を務める妻の美幸さん以下、4名のスタッフです。「牛が好き、自分には牛しかない」という上田さんの夢を共に叶えるために、勤めていた銀行を辞め、親戚一同の反対も押し切って牧場へ嫁ぐことを決意した美幸さん。「実際にやってみたら、休みはないし想像以上に大変ですけどね。義務でできる仕事じゃないですよ。やりたいとか好きだとかいう気持ちがないとできません」。
いま家族・社員が一丸となってめざすのは、生まれた子牛を雄雌問わずすべて自社で肥育する「完全一貫経営」への移行。その挑戦に、兵庫県下から注目が集まっています。

大きくがっしりした体型に育った成牛が、人懐っこく上田さんにすり寄る。

家族でも神戸ビーフをよく食べるという上田さん夫妻。「繊細であっさりしているのに味が深く、他の牛とは全然違いますね」。