Designated Producers

2014年度神戸肉枝肉共励会・名誉賞
「山之口牧場」山之口 直樹 さん

故郷・宮崎から移住10年の努力が結実
のどかな風景が流れる淡路島の南。山之口直樹さんがこの土地に移住したのは、今から10年前の2004年のこと。故郷・宮崎で家業を受け継ぎ、兄弟で牧場を切り盛りしていた山之口さんを動かしたのは、神戸市内ですぐれた但馬牛の作り手として知られる叔父さんの誘いでした。縁あってこの土地と出会い、ゼロからの再出発。
「最初は資金繰りの問題もあったから、いきなり但馬牛は飼えなくて。回転の速い交雑種を買って育てながら、調達した資金で少しずつ但馬牛を増やしていったんです」。
九州の牛とは違うデリケートさを持つ但馬牛。その肥育の技術は叔父さんから学ぶところが多かったとか。牧場から出荷した牛は、できるだけ叔父さんと一緒に試食するといい、「最初は“味がまだまだ”と怒られてばかり。とくに“年間出荷する牛がいつも安定して同じ美味しさでないとあかん”というのは繰り返し言われました」と山之口さん。「最近になってやっと怒られることが減ってきたかな」と笑います。
牛の微妙な体調変化を、いかに読み取るか
山之口牧場の1日は朝6時に始まります。朝の見回りをして、えさをやったり体調の悪い牛のケアをしたりしているうちにお昼になります。
「牛は口をきけないから、微妙な体調の変化にいかに早く気づくかが大事。とくに但馬牛は、朝調子よさそうにしていたのが、夕方になって急に様子が変わることも多々あるから」。気になる牛がいれば、早めに一頭飼いの牛舎に移して念入りに観察を続けます。まめな見回りを繰り返し、少しの変化も見逃さないよう常にアンテナを張っておく必要も。
「うちは宮崎にいる兄が獣医の免許も持っているので、いろんな情報を聞けてありがたいですね」と話します。
牛飼いの子として育った経験を糧に
生きものを飼い育てるのは365日休みなしの仕事。それでも山之口さんは「自分は牛飼いしか知らないから」と淡々としたものです。手持ちの予算をにらみながら、毎月子牛を買い付ける仕事も、腕の見せ所。
「子牛の見定め方は、叔父から教わった部分もあるし、あとは何となく自分の好みというのもある」と山之口さん。宮崎の実家は、まず繁殖農家からスタートし、やがて肥育まで含めた一貫経営に事業を拡大したため、子どもの頃から子牛の出産に立ち会い、手伝うこともしょっちゅうでした。父から子へ、言葉で教えられたことはさほどなく、見よう見まねで覚えたことばかりだと言いますが、今ではそんな経験も糧になっているとか。父や兄、叔父の思いを背負って歩み続けた10年を経て、「2014年はこれまでで一、二を争う当たり年だった」というほど、いい牛を送り出した山之口牧場。これからも自分の目と手の届く範囲で、丁寧な肥育を続けます。

カメラを向けると照れる山之口さん。「神戸ビーフは量を食べても胃がもたれない」とその質に太鼓判。

牛舎から出る堆肥は近所の農家さんへ。代わりに畑で収穫した野菜をいただくという、昔ながらの循環も生きています。