Designated Producers

2016年度神戸肉枝肉共励会・名誉賞
「山之口牧場」山之口 直樹 さん

買ってくれる人の期待を裏切らない肉づくりを
神戸ビーフの中でもとりわけ歩留、肉質、霜降りのすべてが最高レベルに達していることを示す等級「A5-12」。但馬牛として生まれた子牛のうち、神戸ビーフの称号を与えられるのが約半分、そしてA5-12の格付けを得るのは0.5%にも満たないほどです。肥育農家ならば年に1頭でもA5-12ランクの牛を世に送り出したいと願うものですが、それを成し遂げるのは簡単なことではありません。
そんなA5-12ランクを年に数回は出し続けているのが、淡路島の南あわじ市で肥育牧場を営んで12年になる山之口直樹さん。とくに2016年末に行われた「100頭セリ」で名誉賞を獲得した牛は、山之口さん自身のこれまでの実績を大きく塗り替える売値を記録しました。それは取りも直さず「山之口牧場の枝肉を買いたい」という仲買業者が増えている証拠。けれど山之口さんはむしろ、「そんな高値がついてしまうと買ってくれる人に申し訳ないような気がして。自分にとっては賞とか金額よりも、信じて買ってくれる人の期待を裏切らない美味しい肉を安定して作り続ける方がずっと大事」といい、「育てる人、買う人、食べる人」にとっての「三方よし」を願う姿勢を崩しません。
自らの目と手の行き届く範囲で、こつこつ実直に
現在は毎月但馬牛の子牛を4~5頭買い入れては、だいたい同じ数だけ成牛を出荷するというスタンスで、肥育頭数は山之口さん夫婦2人の目と手が行き届く範囲の120頭程度をキープ。「人員を増やして大規模経営をめざす計画は?」との質問には、「ワシはそんな甲斐性ないもん」と笑い、今後も肥育頭数を増やすつもりはないそう。「これだけの好成績を出している理由は?」と尋ねても、「運でしょ、生き物やから何が起こるかわからへんし、うちの牛ががんばってくれただけ」と淡々としたもの。今後の展望や夢については「これまでと変わらずこつこつ続けていくだけ。“お前のところの牛を買うといたら安心や”と言ってもらえれば、それが一番」といい、その語り口から実直な人柄が伝わります。
師を失った悲しみを乗り越えて
そんな中での新しい試みは、一昨年雌牛を4頭買い入れ、繁殖も試み始めたこと。「まだ遊びみたいなもの」と言いつつも、2年で計4回の繁殖に成功し、初の「山之口牧場生まれ」の子牛たちが目下すくすく育っているところだとか。生まれ育った九州・宮崎の実家も、繁殖から肥育まで担う一貫経営牧場だったという山之口さん。そのバックボーンがこれから一層活かされそうです。
実は2016年には悲しいできごともありました。12年前に淡路島に移住し、但馬牛づくりに乗り出すきっかけを作ってくれた、牛飼いの「師」である叔父さんが亡くなったのです。牧場や牛舎の確保から肥育の技術、得意先との関係づくりにいたるまで、あらゆることを教え導いてくれた大きな存在でした。「亡くなる直前まで世話になりっぱなしで。でももう頼れる人もいないと思うと、その分しっかりがんばらな、とは思うね」。その表情に、ぐっと力がこもりました。

「山之口牧場」山之口 直樹 さん 九州男児らしい実直さで、兵庫県の畜産業界の未来についても忌憚ない意見を述べます。

「山之口牧場」山之口 直樹 さん「山之口牧場」山之口 直樹 さん「山之口牧場」山之口 直樹 さん名誉賞を獲得した枝肉の前で、購買者(帝神畜産株式会社・外池祐樹氏)とともに。購買者の信頼を裏切らない肉づくりを大切にしています。